第5章 無限列車
side 炭治郎
「お前も鬼にならないか?」
突然目の前に現れた鬼は、自らの腕を切りつけた煉獄さんを恍惚とした表情で鬼になれと誘っている。
猗窩座と名乗った鬼は今まで会った鬼の中で一番鬼舞辻の匂いが強い。俺も加勢しなければ。
だけど、怪我で体が動かない。止血したとはいえ、これでは足でまといだ。
必死で体勢を仰向けからうつ伏せに変えるが、そこで限界だった。
杏「老いることも死ぬことも、人間という儚い生き物の美しさだ。
老いるからこそ、死ぬからこそ、堪らなく愛しく尊いのだ。強さというものは、肉体に対してのみ使う言葉ではない。
俺は如何なる理由があろうとも鬼にならない」
提案を強い意志で拒否する煉獄さん。すると猗窩座は、鬼にならないなら殺すと、術式を展開して煉獄さんへと襲いかかった。
目で追えない!!
あまりにもレベルの高い戦闘が繰り広げられ、あっけに取られて動けない。
猗「今で殺してきた柱たちに炎はいなかったな。そして俺の誘いに頷く者もいなかった。なぜだろうな?同じく武の道を極める者として理解しかねる。選ばれた者しか、鬼になれないというのに!」
まるで余裕のある猗窩座は話しながら次々と攻撃を仕掛けてくる。加勢しようと起き上がると、「動くな!」と止められた。
互角の戦いを繰り広げているように見える。だけど、傷の再生する鬼とは違い、人間は負った傷は癒えない。気づけば、煉獄さんは左目が潰れて、至る所から血が流れていた。
手足に力が入らない。傷のせいでもあるだろうけど、ヒノカミ神楽を使うとこうなる。助けに入りたいのに.....!!
そうだ、芳華さん!芳華さんはどこに行ったんだ!?
辺りを探すけど、見当たらない。そうしている間にも、戦いは加速していく。満身創痍の煉獄さんは、それでも諦めず戦い続けている。
杏「俺は俺の責務を全うする!!ここにいる者は誰も死なせない!!」
猗「やはりお前は鬼になれ、杏寿郎!!俺と永遠に戦い続けよう!!」
爆音とともに二人の姿はなくなり、一帯を覆うほどの土煙が上がった。
止まった?土煙で見えない......
煉獄さんっ、煉獄さんっ!!
土煙が晴れて見えたのは、右腕を斬られた猗窩座と、
煉獄さんを庇いながら、鋭い目線で猗窩座を見据える芳華さんだった。
side 炭治郎 終