第4章 〝鬼〟という存在
『炭治郎、あなたは禰豆子が大切?』
炭「はい、当然です」
『そう。兄妹だもんね、当然だわ』
目をつぶると、今でも思い出す。私の幸せな宝物(オモイデ)。
『私にもね、兄弟がいたわ。兄と姉と弟が。兄は正義感が強くて、優しくて、私のことを大切にしてくれた。姉は気立てが良くて、町でも有名な美人だった。弟はやんちゃだったけど根は優しい子だった.......』
炭「.............」
『幸せだった。家族六人、これからも欠けることなく暮らしていくものだと、信じて疑わなかった』
幸せが崩れるのはほんとに一瞬。どれだけ積み重ねたところで、少しでも綻びが生じれば、脆くなり瓦礫のように崩れていく。
『鬼が家を襲った時、父は真っ先に私を逃がした。父は元鬼殺隊で、私の稀血が鬼にどれだけの力を与えるのかを知っていたから。家を出てすぐに、母と姉の悲鳴が聞こえたわ。そして、兄。父はなんとか弟に逃がした後、鬼を倒そうとしたけどダメだった』
みんなの苦しそうに絶命していく声が今でも耳に残ってる。耳を塞ぎたくなるほどの断末魔が。
『私は弟だけは助けたくて、必死に足を動かした。でも、すぐに追いつかれて弟は殺された』
あの時、急に軽くなった背中の感覚を今も忘れることができない。弟を殺しておきながらゴミのように投げ捨てた鬼の顔も。
『その瞬間、私の中で何かが切れた』
気づいたら鬼はぐちゃぐちゃで消えていった。気を失った私が次に目を覚ました場所は産屋敷邸だった。
当時の柱に偶然助けられた私は、そのまま鬼殺隊に入隊した。でも、助けてくれた柱もその一年後に上弦に殺されてしまった。
鬼は私の幸せを全て奪っていく。家族も仲間も恩人も。
『鬼は己の欲のためなら、罪のない人を簡単に手にかける。命を奪うことをなんとも思ってない。ただただ憎かった』
斬ることを可哀想とは思わない。だって、人を殺してるんだから。死んだ人は帰らない。死んだらそこで終わりなんだ。
『当たり前は当たり前じゃない.......』
炭「.......」
『炭治郎、どうか禰豆子を守り抜いてね。そして証明して。禰豆子が戦えると。悪ではないことを』
私が、禰豆子を殺さなくて済むように。