第5章 俺は好きな女が手放せない件について
「今更か…本当、少しは気抜けば良いのに。」
少し”らしさ”に気を取られていたが
本来の目的を忘れないうちに済ませようと
昨日取り上げられたスケッチブックを手に取った。
「何だこの下書き……。カニバ……か?」
抽象画ではあるが人が人を喰っているのは
しっかり分かるソレは確かに不気味ではあるが
ゾクゾクと背を刺激する何かがあり
それはきっと”才能”なのだろうと認識した。
「…すげぇ、まだ途中なのに鳥肌もんだわ。
…ちょっとまた追い詰められてたんだな……。」
俺はの絵が単純に好きなのもあるが
毎度この部屋に来る度にソレを見るのは
もうひとつとても大切な理由がある。
は自分の不安や恐怖心のような
マイナスのイメージをあまり表面に出さない。
けれどおおよそ普通の女よりは
確実に”色々”抱えているの心境が心配で
唯一ソレが現れる絵を
まるで診察のように俺は繰り返し見つめる。
この不気味な絵は何かの不安なんだろう。
追い詰められた時に描く絵は芸術性は
とても高いのだが本当に素直に
の心情が伝わってきて
俺はソレの原因を探るように
その抽象的な何かを必死で探してみる。