第3章 俺は何も知らなかった件について
「まだやんのか?」
陸上はトラックを使うので時間外練習ができず
剣道と空手の強化選手のはたいてい
この格技場で一人きりで稽古をしているんだ。
俺はこの光景を酷く見慣れている。
「…うんっ!…もうちょっとだけ。」
ほんのり汗が滲んだ額と薄暗い見慣れた格技場。
それを何となく認識すると
いつも同じ感覚に陥って少し困惑する。
「(またこれだ、何なんだこの感覚……。)」
”喉から手が出そうになる” 感覚。
今日一日中考えていたせいなのか
今日は特に酷くそれを感じてしまい
流石に喉からは手が出ないので
本当にある自分の手を使って
何故だか無性に掴みたかった
の腕をしっかりと掴んだ。
「玄弥?……どうしたの?」
目の前のが仔犬のように首を傾げる。
何故だかソレにまた”食いたくなる”感覚を
覚えたがどうすることも出来ないので
とりあえず引き止めた事への言い訳を考えた。