第3章 ホタテのポワレ アスパラガス添え 義元が焦がしたバター醤油
たった一本の指に全身を支配されてしまうような感覚に『いけない…』と、頭の中で警鐘が鳴るのを聞いて、それに促されるまま私は小さな抵抗をみせた。
「…やめ、て…」
とてもそんなふうには聞こえない口ぶりで。
当然、それが義元さんに届く筈もなく…
「そろそろ、かな……」
その言葉通り、何かが私の中で膨らんでいくのがわかる。
それはいつも優美でどこか儚げな雰囲気を持つ彼から与えられるものとは到底思えない、淫らで生々しいものだった。
「…ぁっ…なんか…変…っ…」
「うん、いいよ。好きな時に気持ちよくなってごらん」
耳許で囁く声に導かれるまま、私は”初めてのそれ”を味わった。
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脱力した身体を抱き止められた腕の中…
背中で感じる硬い筋肉と広い胸板。
いつも緩く合わせた襟からちらりと覗く胸元が、思いのほか逞しいことに気付いてはいたけれど…
見かけによらない筋肉質な体つきに、いつも中性的で柔らかな印象とは真逆の、とても男性的な雰囲気に触れてしまって、この煩い鼓動はまだ治まりそうにない。
心地良い気怠さを感じながら、そんなことを思っていると…
荒い息を吐く唇を湿った指先にちょんちょんとつつかれる。
条件反射のように開いた唇から、いま私に”初めてのそれ”を味わわせた指がそろりと忍び込む。
「…あぅ…」
「飴を舐めるようにしてごらん」
言われた通りその時のことを思い出しながら、指に舌を吸い付けるようにした。
少しの間そうしていると、本当に飴を舐めているみたいに、口の中にじわりと唾液が滲んでくる。
飲み込めないそれが口の端からこぼれて、雫が顎から首筋を伝って、しっとりと湿った肌の上を滑っていくのを感じながら、咥がされた指先に口の中の粘膜や上顎を擽られると、気持ちいいと思った。
「〇〇……」
頭がふわふわして、微睡みの中へと落ちていくような心地でうっとりしかけた意識を、義元さんの声に引き戻される。
「どうして逃げなかったの?」