第3章 ホタテのポワレ アスパラガス添え 義元が焦がしたバター醤油
「──大丈夫、痕をつけたりなんてしないから」
首筋を啄む薄い唇が、私を安心させるようにそう呟いた。
だけど…
問題はそこじゃない。
自身は一糸乱れぬ姿で、私を膝の上に乗せ背後から両足の間に伸ばした手がいったいどこを触りながら言っているのか…
されるがままに身を任せている私も大概だけど。
ここは義元さんが泊まっている宿の一室。
灯りのない部屋を月光が青磁色に染め上げ、月が覗く格子戸が畳に影をつくり、まるで檻の中に捕らわれてしまったみたい。
「本当に〇〇は美しいものをよく見抜くね……この着物もとても似合っているよ。君の白い肌によく映える…」
義元さんが喜んでくれたらいい。
そう思って選んだ彼の好みの着物だった。
なのに…
着崩れた着物は肩まで肌蹴け、裾は太腿まで捲れ上がり、なのに帯だけはきれいに締められたまま…
『このほうが着物も〇〇もどっちも楽しめる』
そんな理由で男の人の膝の上で半裸を晒すことになった私は…
…どうしてこうなってしまったのだろう…
記憶を辿ってみるけれど、唇が肌に触れる度カラダに灯されていく熱と指先が与える快感に、思考が塗り潰されていく。
その唇も指先も、まるで壊れ物を扱うように丁寧で優しいのに、そこには抗えない不思議な強い力があって…
「硬くなってきた…」
ふと、耳許で呟かれた言葉の意味が私にはわからなかった。
もしそれが義元さんが今触れている"その部分"のことを言っているのだとしたら、増々わからない。
私に言わせればそこはもうどろどろに溶けてしまっているかのようなのに…