第3章 ホタテのポワレ アスパラガス添え 義元が焦がしたバター醤油
いまさら…
そう思いながら、その答えを探して思考を巡らせた。
きっと、義元さんは逃げる私を引き止めたりしない。
それを知って私は逃げなかった。
本気で拒めば、義元さんはそれ以上私に触れることはしなかっただろう。
私が義元さんに抗えないのは、不思議な力なんかじゃない。
それは…
私は義元さんのことが──
「…っ…ほぁ…ふぃ……っ」
「ごめん、喋れなかったね…」
込み上げてきた想いを紡ぐことができなくて、それが胸につっかえて苦しくなる。
想いを伝えたくて必死に喘いでみても、義元さんは口の中の指を外してはくれなかった。
端から答えを聞くつもりなんてないとでも言うように。
「野暮なことを聞いたね。今のは忘れて……君があまりにも純真で無垢だから、少し苛めたくなっただけ…」
多分、義元さんは私の気持ちに気付いている。
そして、きっと義元さんも──
彼と逢うのはいつも偶然で、約束を交わして逢うことは一度もなかったけれど…
偶然の逢瀬を重ねる中で、なんとなくお互いの気持ちには気付いていた。
だけど、敵対する立場にいる者同士…
この恋が簡単にはいかないことはわかっている。
ここで感情に任せて想いを口にすれば、きっと義元さんを困らせてしまう。
今はまだ、その言葉を口にしてはいけない気がした。
胸につっかえた想いがじりじりと心を焦がし、そこに確かな痕を残していく痛みをぐっと堪えながら──
それは無意識だった。
「〇〇……俺の指、そんなにおいしい?」
気づけば、私は乳飲み子がおしゃぶりするようにちゅぱちゅぱと夢中で義元さんの指をしゃぶっていた。
「…っ!」
ボッと頬が熱くなるのを感じて、慌ててその指を押し返した舌は、やんわりと押し戻されてしまう。
「だったら──もう少しだけ、〇〇に触れてもいい?……絶対に傷つけたりしないから」
その言葉の意味は私にもなんとなくわかって…
いつもの穏やかな声に混じる危険な甘さに、羞恥と不安をごくりと飲み込んだ。
そうすれば、いまここに在るのは…
僅かばかりの背徳感を除けば、はち切れんばかりの淫らな欲望だけだった。