第10章 幸達磨-yukidaruma-
真剣な眼差しで正面から見据えられ、身体に緊張が走った。
「なんでもなく、ないだろう?」
それはついさっき、機嫌のいい理由を誤魔化したことを言っているのだと気付いて、私が言葉に詰まるのを見ると、光秀さんはようやく表情を緩ませた。
「俺を誤魔化せるつもりでいたのか?」
そう言われ、諦めからかふっと体の力が抜けた。
(やっぱり、光秀さんに誤魔化しは通用しない、か……)
「さあ、白状しろ。……お前をそんなに笑顔にさせるのは、何の仕業だ?」
優しい眼差しと穏やかな声が心の蓋をつつく。
私に秘密を吐かせるにはどうすればいいか、光秀さんはよく知っている。
(そんなふうに尋問されたら……)
ここまで何度も飲み込んだ言葉が口を吐く。
「帰れなくなってしまったのが……嬉しいんです」
「…ん?」
「だって……ここに軟禁されてる以上、光秀さんはどこにも行かないじゃないですか…」
「……〇〇」
私の言葉に、光秀さんはわずかに眉根を寄せた。
その顔を見ると胸がチクッと痛むから、縁側に並ぶ可愛らしい雪だるまに視線を逃がした。
「何も言わず出て行ったまま、数日帰ってこなかったり……ようやく帰ってきたと思ったら、またすぐにお仕事に行かなきゃいけなかったり……一緒に眠ったはずなのに、夜中に目が覚めるといなくなってたり……」
決して言うまいと、心の奥底にしまい込んでいた想いが、ぽろぽろと口から零れ出ていく。
「それが光秀さんの生き方だってわかってます。それを改めてほしいだなんてこれっぽっちも思ってません。でも……やっぱり、傍にいてほしくて……光秀さんを待っている時間は、寂しくなっちゃうんです……」