第12章 小娘の逆襲
(……あら?……確かに、これは主様の匂いだわ。間違いない)
私を見て笑っているふたりに、ほっと胸を撫で下ろす。
(まったく、驚かせないでよね…)
完全に警戒をといたところで、忘れていたあの苦悶が再び襲ってくる。
(…っ…あの、主様……申し訳ないんだけど……ちょっと、ココ、掻いてくださらない……?)
大きな手に頭を擦りつけると、意図が伝わったのか、主様の長い指が毛並みを掻き分ける。
(ん…もう少し右…あ、もうちょっと後ろ…あ、行き過ぎ…あっ、そこ!………カイ、カンっ………)
頭から尻尾の先に向かって走っていくカイカンに、恍惚としてうっとり目を細めた。
そんな私を見て、主様と〇〇様が目を合わせて笑っている。
ふたりがこうしているところを見ているのはとてもいい気分。
(せっかくだから、居心地のいいここでひと休みしていこうかしら……)
ようやく苦悶から解放された体を、主様の傍らにくるりと丸めた。
(いつも冷静沈着な主様も、〇〇様の前ではこんな無防備な姿も見せるのね……)
またひとつ、主様を愛おしく思う。
でも、それは…
私だけの秘密──
おしまい。
2021.8.23