第10章 幸達磨-yukidaruma-
言い終えて、やっぱり後悔した。
償いのつもりで、私の小さな手には収まらない光秀さんの大きな手を両手で包むと、さっき光秀さんがそうしてくれたように、冷たい手に はぁ と息を吹きかける。
「ごめんなさい。こんな甘えたこと言っても光秀さんを困らせるだけだって、分かってるのに……」
「いいや、素直でよろしい。……本当は寂しいくせに、お前はいつもそれを隠して笑うからな」
やっぱり光秀さんには全部お見通しだったことに、私は自嘲の溜め息を吐いた。
「ここにいる間は、思うがままに俺に甘えるといい。幸か不幸か、時間は存分にあるからな…」
すぐにでもそうしたい。
けれど、今ここでそうすることは気が咎めた。
「でも…ここにはお仕事で来たのに……」
「本来、今日帰る予定だったんだ。それが不測の事態で帰れなくなった……というわけで、今日は臨時の休暇だ」
「休暇……?」
包み込んだ手に、再び包み返される。
「お前に寂しい思いをさせていることは分かっている。それを我慢させていることも……そんな健気なお前が、たまには我侭に甘えるのを、誰も咎めはしない」
「……光秀さん……」
私の遣る瀬無い想いを、光秀さんはちゃんと分かっていてくれた。
申し訳ない気持ちと、光秀さんの底なしの優しさに、鼻の奥がツンとなって、じわりと潤んだ瞳に気付かれないように、俯いた。
「──〇〇……」
名前を呼ばれ顔を上げると、光秀さんが私に向かって両手を広げる。
「甘えていいぞ?」
「っ…」
堪らずその胸に飛び込んだ。
逞しい腕に優しく包まれて、それだけで何もかも満たされる気がした。
(だけど、今だけは……)
我侭になった心と体に急かされ──
腕の中から見上げてくる私を待ち受けていたかのように、光秀さんは微笑むと、少し身体を屈め、顔を斜めに傾けた。
それを促すような仕草に、私は何の躊躇いもなく、唇を重ねた。