第10章 幸達磨-yukidaruma-
「随分と機嫌がいいな……そんなに雪が積もったのが嬉しいか?」
いつもなら、それに笑って頷けた。
だけど、今は喉に引っ掛かったままの言葉が邪魔をする。
「………」
「……〇〇?……どうした?」
憂わしげな瞳に覗き込まれ、言ってしまいたい言葉を、言いかけては飲み込むことを何度も繰り返して…
やっぱりそれは、心の中に押し込んで蓋をした。
「いえ、なんでもないです!……そうですね。久しぶりにこんなに積もった雪を見たので、つい子どもの頃を思い出して、嬉しくなっちゃいました。……すみません、帰れなくなっちゃったのに……不謹慎ですよね……」
苦笑する私に、光秀さんはわずかに口元を綻ばせただけで何も言わず手を離すと、その手で雪を掬った。
「……光秀さん?」
「番がなくては、寂しいだろう?」
私が作ったものをお手本に、光秀さんが見よう見まねで雪だるまを作っていく。
雪を丸める光秀さんの姿がなんだか新鮮で見惚れているうちに、私の作った雪だるまの隣にひと回り大きな雪だるまが並んだ。
そのふたつが寄り添う姿を見て、ほっこりした気持ちになっていると──
不意に首筋に触れたおぞましい感覚に、私は背筋を震わせた。
「──っっ!?……何するんですか!!」
氷のような指が首筋に触れ、意地悪された悔しさに、私は声を上げ、しかめた顔を光秀さんに向けた。
「っもう!……っ」
けれど、振り仰いだ光秀さんの表情は至って真剣で、決して私をからかって反応を楽しんでいるわけではないように見え、思わず文句の言葉も引っ込んでしまう。
そして、表情にも声にも、からかいの色を一切見せない光秀さんが、短くひと言告げる。
「嘘を吐いた罰だ」