第10章 幸達磨-yukidaruma-
そうして、案内されたのは、大名自ら手入れをしたという自慢の庭がある部屋だった。
庭の中央に小さな池を置き、その周りを囲うように植えられた庭木は丁寧に剪定されていて、無造作に置かれたようで計算された石組や、敷き詰められた色鮮やかな苔たちからも手入れが行き届いているのがわかる。
そんな眺めの良い庭を見ながら、光秀さんと私は夕暮れまでのひと時、旅の疲れを癒した。
その後、夕餉をいただきながら少しお酒も入り、早朝からの旅の疲れもあってか、ほろ酔い気分の心地よさの中、その日私たちは早々に眠りについた。
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──翌朝。
伸ばした手は、確かなぬくもりに触れた。
薄く開いた瞼から、長い睫毛を伏せた穏やかな寝顔が、心をあたたかさで満たしてくれる。
ひと組の布団に身体を寄せ合う窮屈さに幸せを感じながら、その寝顔を見上げた。
(……光秀さん、寝顔もイケメン…………ちょっとだけ、悪戯しちゃおうかな……)
きっと、そんな私の心情を知って閉じられたままでいる瞼に微笑みかけながら ちゅ と触れるだけの口づけをすれば、すぐさまその腕に捕えられ、お仕置きだとでも言うように、きつく抱きしめられる。
そんなふうに、布団の中でじゃれ合いながら、久しぶりにふたりで迎える朝の幸せに浸っていると、ふと、頭上で光秀さんの低い声が響く。
「やけに静かだな……」
部屋の外の異様な静けさを感じ、ふたり息を潜め耳を澄ます。
「……言われてみれば……確かに」
様子を見てくる、と離れていく温もりを寂しく思いながら、その背中を見つめていると…
障子戸を目の幅ほどに開いて外の様子を伺った光秀さんが、軽く息を呑んだのがわかった。
「光秀さん?……どうしたんですか?」
寝起きの掠れ声でそう訊ねながら起き上がると、光秀さんが振り向いて私を手招く。
誘われるがまま光秀さんの傍へ寄り、その肩越しに障子戸の隙間から外を覗くと──