第10章 幸達磨-yukidaruma-
「──わぁ!」
洗練された眺めの良い庭は、ひと晩にして一面の銀世界へと姿を変えていた。
「すごい……ひと晩でこんなに……」
木々たちは綿帽子をかぶり、池にはうっすらと氷が張り、庭石をすっぽり隠してしまった雪は、膝の高さほどある縁側に迫るほどだった。
「ここまで積もった雪を見るのは、いつ振りだろうな……」
さすがの光秀さんもこの積雪には驚いている様子で、何かを考えるように腕組みをしながらそれを眺めていた。
そこへ、襖の向こうから声が掛かる。
「──おはようございます」
部屋を訪ねてきたのは大名だった。
大名
「いやはや、驚きました。このような雪は私共も数十年経験しておりません」
この地域は滅多に雪の降るような場所ではないそうで、ここに住んでいる人たちも驚いているという。
大名
「故に、雪への備えをしておりませんで……」
会話の途中で言葉を濁した大名が、申し訳なさそうに眉尻を下げる。
大名
「実は……この雪の重みで、橋が崩れてしまいまして……」
「えっ…橋が……!?」
確かにここに来る時、大きな川に掛けられた橋を渡ってきた。
(その橋がなくなっちゃったってことは……)
大名
「一時しのぎの橋をこしらえるにしても、この雪では作業も思うようにはかどりません。……向こう岸に繋がるまでは少なくとも……数日はかかるかと……」
「そうか。……あの川を渡るほか安土に帰る道はない。泳いで渡ることもできるが──あれが三途の川となるかもしれないな……」
顎に手を当て真剣な面持ちで恐ろしいを淡々と語る光秀さんが、それを実行に移し兼ねない気がして、私は慌てて声を上げた。
「じゃあ!……橋が直らない限り帰れない、ってことですか?」