第9章 婀娜な紅葉に移り香を~ノーマルート(共通)
~後日譚~
──目を覚ますと、私は光秀さんの部屋の布団の中にいた。
私たちは、日が昇るのと同時に宿を出た。
光秀さんには今日も仕事が待っているから。
目を覚ました布団の中、隣に光秀さんはいない。
そして、帰りの道中の記憶が全くない。
きっと、短期間で規格外の大きさの羽織を二着も仕立てたことによる疲労と、昨夜の情事での体力消耗が相まって、身体が限界を迎えたのだろう。
馬に揺られる心地よさと、温かくて安心する光秀さんの腕の中の居心地の良さに、私はすっかり眠りこけてしまったらしい。
お陰で光秀さんとの貴重なふたり時間も無断にした。
(……最悪)
その上、ずっと光秀さんに聞きたかったことがあったのに、それも聞きそびれてしまった。
光秀さんから貰った”えびこう”が何なのか、私はずっと気になっていた。
光秀さんが留守の間、私を部屋に呼んだ信長様の不可解な言動も、未だにその真相は謎のままで釈然としない。
どうも”えびこう”にはお守り以外の何かがある気がして仕方がない。
朝の身支度を整えながら、頭の中をモヤモヤさせていると、襖の向こうから声が掛かる。
「──〇〇様、朝餉の支度が整いました。お持ちしてもよろしいでしょうか」
「……はい、お願いします」
朝食を持ってきてくれた女中さんが、光秀さんは私を部屋まで運んだあと、すぐに仕事に出掛けたと教えてくれた。
私が仕事へ出かけるまではまだ少し時間があるから起こさずにいてくれたのだろう。
(じゃあ、少なくとも夜まで光秀さんには逢えないな……よし。こういう時は──)
──朝食を食べ終え、仕事に出かける前に、私は九兵衛さんの部屋を訪れた。
けれど、九兵衛さんはすでに出かけてしまっていたようで、私は仕方なくそのまま安土城へと仕事に向かった。