第9章 婀娜な紅葉に移り香を~ノーマルート(共通)
「そうだな……人目を憚(はばか)ってこういうこともできて、いいな……」
羽織の中で、手探りに身八つ口から手を滑り込ませた。
「っ…ちょっと、光秀さんっ…」
「どうした?そのためにこうしてふたりで着るものではないのか?」
「…っ違います!…そんなつもりじゃない、ですっ……」
「なんだ、違うのか……それは残念」
〇〇は俺の手を遠慮がちに押し退けながら満更でもない様子だったが、ここはひとまず大人しく手を引くことにした。
「………。そうじやなくてっ!光秀さんとこうやってただくっついて他愛ない話をする時間も私は好きなんです。……でも、こういう時はいつも私ばかりあたためてもらって、光秀さんが寒い思いをするのは嫌だから……」
何時ぞや、湯上りの〇〇と縁側でこうしていた時のこと、夜風の冷たさに思わず肩を竦めたことがあった。
(そんな些細なことを気にかけていたのか……)
「こんな大きな羽織は光秀さんも持ってないんじゃないかなって、思ったんですけど……」
振り向いてこちらの反応を窺うように、どこか不安げに見つめてくる〇〇に心のままに微笑んで見せ、今度こそ素直な気持ちを口にする。
「ああ、確かに。こんな可愛い想いの詰まった羽織を貰うのは初めてだ」
そう言うと、〇〇は照れたようにほんのりと頬を染め、心底安堵したように微笑んだ。
その弧を描いた〇〇の唇に、同じ形の自分の唇を重ね合わせ…
高く昇った月に見守られながら、ふたりあたたかな幸せに包まれた──