第7章 婀娜な紅葉に移り香を
「もう何なのっ…!」
閉じられた襖越しに悪態をついて勢いよく踵を返した途端──
「──ぶっ!!」
突如目の前に現れた大きな壁に〇〇は鼻頭をぶつけた。
「おお、大丈夫か…」
「……あ、秀吉さん……ごめんなさい!」
「お前も御館様に御用だったのか?」
そう聞かれ、〇〇は秀吉に事の顛末を話した。
「そうか……だが、それも何かお考えがあってのことだろう」
「そうかな…」
依然として腑に落ちない〇〇だったが、これ以上秀吉の足止めをしてはいけないと、話題を変える。
「秀吉さんも信長様に用事があってここに来たんだよね?」
「ああ」
「じゃあ、私はこれで……」
「待て。もしかして、これからひとりで帰るのか?」
「うん…?」
「だーめーだ。もう外は真っ暗だぞ……そうだ、今日はお前の部屋に泊まっていけ」
「……でも、あの部屋は暫く使ってないし」
「心配いらない。いつお前が光秀に愛想尽かせて帰ってきてもいいように、部屋はいつでも使えるようにしてある。それに、帰ってもどうせあいつはいないんだろう?」
「そう、だけど……御殿の人たちが心配するし…」
「あとで光秀の御殿には文を出しておくから心配するな。……だから、今日はここに泊っていけ。いいな?」
「……」
「こら、返事は?」
「…………はい」
「よし!」
過保護すぎる秀吉に押し切られ、この日〇〇は久しぶりに安土城の自室で一夜を過ごすこととなった。