第7章 婀娜な紅葉に移り香を
「しばらく構ってやれないが、いい子で待っているんだぞ…」
愁う気持ちを押し殺し、俺に迷惑をかけまいと素直に頷く〇〇は矢張り愛おしい。
「誕生日までには戻ってくる。……その日は誰にも邪魔されずゆっくり過ごせるように宿を取っておこう。誕生日にはふたりでそこへ行こう」
〇〇と約束を交わし、懐から"あれ"を取り出す。
「これをやろう」
「……これは?」
「衣被香……という名の、御守りだ」
「えびこう…」
一寸ほどの小さな巾着袋のような形をした袋の中には、いつも俺が使っている香料の粉末が入っている。
「離れている間、これが俺の代わりにお前を守ってくれるだろう……。ただし、肌身離さず持っていることだ。一時(いっとき)でも離してしまえば、たちまち効果はなくなってしまう。いいな?」
そう言い聞かせ、"衣被香”のお守りを〇〇の懐に忍び込ませた。
それは体温で温められるとほんのりと香りを放つ。
「……あ、光秀さんの香り…」
「これで少しは寂しさも紛れるだろう?」
俺が吐いた見せかけの嘘に綻んだ頬にひとつ口づけを落として、束の間の別れの挨拶とした──