第7章 婀娜な紅葉に移り香を
ぴくりと肩を震わせた〇〇が、閉じていた口を慌てて開く。
「っ!光秀さん、の…こと、です…」
「だろうな」
「っ…わかってるなら、わざわざ言わせないで…っ」
無駄な反論は聞き流して、後ろから針を持つ〇〇の手を取り、針山へ針を戻させると、空になった手をそのまま口元に引き寄せて、手の甲に唇を押し付けた。
「っ、光秀さん…?」
細くしなやかな指をひとつひとつ唇で辿っていき、その中の一本を口に含み、丁寧に舌を這わせる。
「っ…」
声が零れてしまわぬようきゅっと唇を噛み締めながら、せめてもの抵抗のつもりか〇〇が顔を背けた。
──と、目の前に無防備に晒された白い項…
(……まったく、隙だらけだな)
遠慮なくそこを舐め上げる。
「はぁんっ……」
「こら。まだ日のあるうちにそんな声を出すと、お天道様に叱られるぞ…?」
俺のせいだと言わんばかりにキッと睨みを利かせてこちらを振り向いたところを透かさず唇を奪う。
舌を捻じ込んで奥までじっくりと熱を与えてから放してやると、間近で潤んだ瞳に見つめられて、つまみ食いしたい衝動に駆られるが、ここで手を付けてしまえば、すべてが水の泡。
突き上げる衝動を、なけなしの理性で必死に抑え込んだ。
「……悪いな…もう行かなくては…」
(何時、なけなしのそれが吹き飛ぶかわからない……)
「最近の光秀さん……いつもに増して意地悪です……」
「そうかもしれないな…」
冷静なふりをして呑気な返事をした俺に、〇〇は一層不満の色を濃くする。
いつもは透き通るほどに白い肌を、色づいた紅葉(もみじ)の如く鮮やかに染めて。
その愁(うれ)いた横顔に滲む甘い色香が悩ましい。
〇〇の警戒心の薄さは相変わらずな上に、少しからかっただけでこれだ。
しかしそれは〇〇にとって、俺が食の味を理解しようとしても出来ないのと同じことなのかもしれない。
だからこそ、このままひとり置いて行くのは心許無い。
(やはり"あれ"を用意しておいて良かったな……)
最後にもう一度だけ〇〇をきつく抱きしめて、暫く留守にすることを告げた。