第7章 婀娜な紅葉に移り香を
それからの日々、俺はいつも以上に忙しなく駆け回っていた。
最高の馳走を用意した〇〇と過ごす『特別な日』を、誰にも何にも邪魔をされたくはない。
馳走の仕込みの他にも、こちらの事情で万に一つでも火急の事態が起こらぬよう、懸念すべきことは今のうちすべて片付けておきたかった。
──そんな中、次の仕事へと向かうまでのほんの束の間…
俺は〇〇の顔見たさに御殿の自室へと戻った。
(今日は仕事は休みだと言っていたな……そうなると……)
誕生日ぷれぜんとの案に四苦八苦している頃だろう。
ひとり百面相をしているであろう様子を想像しながら部屋へと向かうと、〇〇は縁側で針仕事をしていた。
手元にあるのは、俺の寝間着。
(ああ、そういえば……ほつれを縫ってくれるよう頼んでいたんだったな……)
暫し、傍の柱にもたれ、〇〇の様子を伺った。
すると〇〇は、二三針縫ったかと思うと、手を止め宙を仰ぎ、また二三針縫うと、手を止め首を傾げて唸る。
その様子を見るからに、どうやらぷれぜんとの案はまだ決まっていないらしい。
思惑通り、仕込みが進んでいることを確信して口許が緩む。
(そうして日がな一日、俺のことで頭を一杯にさせておけばいい…)
頃合いを見て、後ろからそっと近づき〇〇を両腕で抱き締めた。
「──っ!」
咄嗟に〇〇は全身を強張らせたが、すぐに安堵の息を吐いてその緊張を解いた。
「光秀さん……もう、びっくりさせないでください…」
「いま何を想っていた?」
「……え?…別に、何も…」
答えなど分かりきっているが、〇〇の事となると途端に業突く張りになるこの頭がそれを許さない。
耳に触れるか触れないかのところに唇を寄せ、低く潜めた声で囁く。
「言わないとどうなるか……賢いお前ならわかるだろう?」