第7章 婀娜な紅葉に移り香を
そう言うと、〇〇の表情が嬉々として輝いた。
「っはい!何がいいですか?なんでも言ってください!」
「そうだな……お前の得意の裁縫で何か作ってくれ。ただし、俺が手にしたことのないようなものがいいな」
そう言うと、〇〇の表情がわずかに曇る。
「……光秀さんが持っていないもの……具体的に、どんな感じのものですか…?」
「それを言ってしまっては愉しみが減るだろう?」
「……確かに」
「では、愉しみにしているぞ──」
あの時はただ、俺のために何かしたいと、気を揉む〇〇への気休めのための言葉のつもりだった。
〇〇ならば相応のものを考えてくれるだろうという期待も込めつつ、困らせたい悪戯心もあり、少々意地悪な注文をしてみたが──
(今となっては、『特別な日』に味わう馳走のいい仕込み材料となりそうだ……)
そんなことを考えながら頬を緩めたところに、廊下の向こうから小さな足音が聞こえてきた。
ひたひたと板の間を踏み鳴らす可愛らしい音色は、やがてすぐ側まで来るとはたりと立ち尽くす。
しかし、それには気付かぬふりをして、月を仰いだまま気配だけで様子を伺っていると、微かに緊張が伝わってくる。
(今更、何に緊張することがあるのか……)
そんな初心な気持ちを微笑ましく思いながら、見上げた月から移したような妖しげな光を瞳に灯し、それを流れるように〇〇へと向けると…
まだ火照りの冷めない薄紅色の頬が瞬く間に紅色に染まった。
(本当に、お前は可愛いな……)
「おいで……湯冷めするといけない」
それは恥ずかしがり屋の可愛い連れ合いを腕の中に招き入れるための口実。
胡坐をかいた足の間に〇〇を囲って、冷たい秋の夜風から守るように抱き締めた。
「寒くはないか」
「はい…光秀さんは、寒くないですか?」
「ああ、お前を抱きしめていれば寒くない」