第7章 婀娜な紅葉に移り香を
「…あっ!」
舌の上に残る酸味と塩気と旨味…
なれずしほどの刺激はないが、よく似た覚えのある味だった。
同時に、その独特な味わいが甘い記憶を呼び起こす。
あの日俺は、この上ない馳走の食し方を知った。
──美味しく仕上がるまでの待ち時間が長いほど、飢えが欲望を熟成させていき、ようやく口に含んだ時、待ちに待った歓びが舌の上で炸裂する──
(美味いものを味わうためには仕込みが肝心、だったか──)
「──もう!光秀さん、聞いてます?」
甘い想い出に浸っていたせいで、隣で〇〇が憤慨していることに気付かなかった。
「ん…?」
「だから!食べたいなら、さっき光秀さんも頂けばよかったじゃないですか」
〇〇が自分の食い物を奪われて文句を言っているわけではないのは、勿論わかっている。
(それこそ、もう幾度も肌を合わせた仲だというのに…)
「どうどう。そう食い意地を張ると、ここに肉がつくぞ……」
ふに と〇〇の脇腹を摘まむ。
「ひゃっ!…やめてくださいっ…」
「まあ、俺はもう少し肉付きがよくでも構わないんだがな……その方がより抱き心地がよくなる」
「…っもう…さっきからあんまり人前でそういうこと言わないでください……」
(何を今更……生娘でもあるまいし)
だのに、そうやっていつまでたっても、俺の言動に〇〇は初で素直な反応をする。
(……だからお前は可愛い)
あの夜もそうだった。
触れてほしいのに触れられない…
俺の意地悪に恥じらいつつも悦びを隠せない…
そうして熟成された〇〇の味は格別だった。
そこまで思考を巡らせると、ふとある想いが脳裏を過る。
(食の味は共に味わうことはできないが、〇〇と共に味わうことができるものが一つだけあったか……)
思えば、あと半月ほどで年に一度の〇〇が”特別”とする日がやってくる。
その日には、宴と馳走は欠かせないものなのだと〇〇は言っていた。
(……馳走を食すには最適の日だな)
きっと今年も、〇〇はその『特別な日』を健気に祝ってくれるのだろうから──