第7章 婀娜な紅葉に移り香を
三成
「光秀様と〇〇様は、お相撲を取られるのですか?」
家康
「何をどう解釈すればそういう発想になるわけ?光秀さんと〇〇が相撲取るわけないでしょ…」
三成
「私もそう思います。光秀様と〇〇様ではあまりにも力の差が……ああ、わかりました!光秀様はお優しい方ですから、わざと〇〇様に負けて差し上げるのではないでしょうか」
家康
「…………。政宗さーん、三成が勝負したいって言ってます」
政宗
「おお、いいだろう。来い、三成」
三成
「え…あっ…」
強引に土俵へと上げられた三成は、暫くの間政宗の標的となった。
──そこへ、襷(たすき)掛けをした厨番らしい男が大皿を抱えてやってきた。
「政宗様からの差し入れでございます。おひとつどうぞ…」
「いや、俺はいい…」
俺が食に理解がないことは周知の事実。
この厨番の男もそれを承知の上で、それ以上無理に勧めることはせず、続けて〇〇へと皿を差し出した。
嘘も方便と人を欺き偽る武器でしかなかったこの舌も、〇〇と出逢ってから真実と愛を紡ぐことを覚えた。
しかし、食を味わうということについては、〇〇を以てしても如何ともし難く、未だ覚えることはできないでいる。
俺が食の味が理解できないことで、〇〇には少なからず寂しい思いをさせていることを心苦しく思ってはいるが──
そんなふうに自嘲する俺に反して、大皿の上に並べられたそれを見て〇〇が顔を綻ばせる。
「……わぁ!これは何のお寿司ですか?」
「こちらは、鮎ずしでございます」
(……ん?)
聞き覚えのある似たような言葉に、記憶を辿る。
あれは俺と〇〇が恋仲になってまだ間もない頃のこと──
政宗に舌を鍛え直してやると言われ、厨に呼び出されたことがあった。
その時『鮎のなれずし』という、複雑な味のする食い物を食わされた。
あれは魚を米まみれにしたもののようだったが、この鮎ずしとは魚の腹に米が押し込まれたようなものだった。
(形は少し違うようだが……どれ……)
その手を引き寄せ、〇〇が齧った鮓をひと口いただいた。