第6章 想ひ想はれ常しへに、夏。
──桔梗紋のお揃いの浴衣を着た男女が仲睦まじく手を繋ぎ合って歩く姿──
そこに自分と光秀さんの姿を重ね合わせて、羨ましく思っていた。
本当は飛びついてしまいたいほどの高ぶる気持ちを抑え、差し出された手をそっと握ると、優しく引き寄せられる。
態としどけなく合わせた襟元から覗く胸元が、ただならぬ色気を放っているのが目の毒で…
手を引かれ歩きながら、出来るだけその姿を視界に映さぬように、辺りの風景に気を散らす。
すると、ちょっとした違和感に気付いた。
さっき九兵衛さんにこの町の人たちは光秀さんのことをとても慕っていると聞いた。
(だったら、光秀さんが町中を歩いたら、もっと騒ぎになるはずじゃ…)
みんな気を遣っているのか、こちらを気にする素振りもなく、むしろ光秀さんに気づいてすらいないような気がする。
その違和感が気になって、私は少しだけ身体を光秀さんに寄せ小声で話しかけた。
「……あの、光秀さん?みんな光秀さんに気づいてないんでしょうか?」
「ああ、殆どが俺の顔は知らないからな」
「…あ…そうか…」
写真もテレビもないこの時代では、どんな有名人でも名前は知っているけど顔は知らないというのは珍しいことではない。
「いつもならば身なりで気付かれることもあるだろうが、今日は幸い皆同じ装いだからな」
「なるほど…」
状況が納得できた途端、高揚感と背徳感が綯い交ぜになったような胸の高鳴りを感じて、私は静かに口元を綻ばせた。
安土では、光秀さんと町中を手を繋いで歩くことなどなかなか叶わない。
(でも、今日は光秀さんと堂々と手を繋いでデートできる……)
そう思って、無意識に繋いだ指先に力を込めると、それに応えるように光秀さんも握り返してくれたのが分かって、絡め合ったその指先から甘い幸福感が全身に染み渡っていった。