第1章 君が教えてくれたこと
むくれる私を見兼ねて、気晴らしになるだろうと、光秀さんは、私を遠乗りに連れ出した。
二人並んで馬を走らせる。
雲ひとつない真っ青な空の下、髪を掻き分ける春の風が心地良い。
──暫く走った後。
馬の休息も兼ね、私たちはお茶屋さんで一休みすることに。
店先に設けられた長椅子に並んで座り、お茶と鶯餅をふたつ頼んだ。
「おいしそう…。光秀さんも、どうぞ」
きな粉がたっぷり塗された鶯餅が乗ったお皿を、光秀さんの前に差し出す。
「俺はいい。お前がふたつとも食べろ」
「だめです。美味しいものは一緒に食べないと」
「味はわからないぞ」
「知ってます。一緒に同じものを食べるのが大事なんです」
「お前が食べさせてくれるなら、喜んでいただこう」
「…また、そういうことを…」
からかわれていると分かっているけれど、やっぱり一緒に食べたくて…。
辺りを見回し、人目がないことを確認してから、きな粉が零れ落ちないようにそっと一つ手に取って、おずおずと光秀さんの口元に差し出す。
私の手からひと口齧った光秀さんの口元が綻ぶ。
「……柔らかいな……だが、お前の唇ほどではないな」
そう言って、残りの分をひと口で食べ切ると、仕上げのようにきな粉がついた私の指を ちゅちゅっ と舐め取る。
(……っ)
指先から甘い痺れが伝わって ふるっ と背筋が震える。
そして、その照れ隠しに適当に投げた言葉が墓穴を掘った。
「…お、お餅の方が…柔らかい、と思います、けど……」
「そうか……どれ、確かめてみるか」
すっ と伸びてきた指先が顎を掬いあげる。
私は瞬時に危険を察知し、光秀さんから距離を取り、お皿の上のお餅を慌てて頬張った。