第4章 愛しけりゃこそ強とと打て
──その夜。
湯浴みを終え部屋に戻ると、先に寝支度を終え布団の上で寛いでいた光秀さんが私を呼ぶ。
(このモヤモヤを明日に持ち越すわけにはいかない…)
私は覚悟を決め、光秀さんと膝を合わせて座った。
(今度こそ……)
「あの、光秀さ…」
「〇〇」
「…っ」
「両手を出してみろ。……いいものをやろう」
またもや言葉を遮られてしまった。
(やっぱり、絶対わざとだよね…?)
そう思いつつもそれを咎めることができないまま、仕方なく言われた通り、水を掬うような形で光秀さんの前に両手を差し出す。
「……こう、ですか?」
「ああ…」
疑問を抱きながらそのまま大人しく待っていると、光秀さんの手が頭の方に伸びてきて、直後に髪の毛がうなじを掠めた。
一瞬何が起きたのかわからなかったけれど、すぐに湯浴みの時に濡れないように髪を束ねていた結紐を解かれたのだとわかった。
光秀さんはその結紐を手にしたまま、差し出した私の両の手を包んで軽く握るようにさせる。
さらに左右の親指同士が隣り合う形にさせると、右手と左手の親指だけを、その紐で蝶結に括った。
「……?あの、光秀さん?」
状況が理解できず、首を傾げながら光秀さんの顔を伺うと…
行燈の明かりを受けた黄金(こがね)色の瞳が ギラリ と光った。
「っ…!」
(罠だ!)
そう気付いた時には既に手遅れだった。
「…なに、を…」
「これを如何するかは……お前次第だ」
言いながら、光秀さんは妖艶な瞳でこちらを見据えたまま私の手を引き寄せ、親指を括った結び目に口づけた。
途端に催眠術にかかったかのように、手指が硬直する。
「っ…どういうこと、ですか……?」
「悪い子には、仕置きが必要だろう?」