第4章 愛しけりゃこそ強とと打て
膝の上に置いていた私の手にそっと光秀さんの手が重なる。
今だ、と思い吸い込んだ息を私はすぐに飲み込んだ。
「急に空いた時間をお前と過ごしたいと思うのは……迷惑だったか?」
大きな手が弱々しく握ってくるから、私は慌ててかぶりを振る。
「そんなわけ!……嬉しいに、決まってるじゃないですか」
「そうか。ならばよかった…」
そう言って、光秀さんは綺麗に笑った。
思わず見惚れてしまうようなその美しい笑顔に胸がざわめいて、私はそのまま口を噤(つぐ)んだ。
(また言いそびれた……)
そうこうしているうちに、注文したうどんが運ばれてくる。
朝と夜に栄養補給のための食事をとるだけの光秀さんは、自分は食べず、隣でうどんを啜る私を微笑んで見ているだけ。
この上ない食べ辛さを感じながら、私はうどんをほぼ呑み込む勢いで平らげた。
「──ごちそうさまでした」
「甘味はいらないのか?」
「え?あ……いいん、ですか?」
「ああ、遠慮はいらない。好きなだけ食べろ」
あまり食べたい気分ではないけれど、断れる雰囲気でもなくて仕方なく頷くと、まだ頼んでもいない甘味をお店のご主人が私の目の前に置いていく。
寒天に甘葛(あまづら)がたっぷりとかかったそれを、光秀さんはさらにずいと私の方に差し出すと、頬杖をつきにっこり微笑む。
無言の笑顔にいただきます、と小さく呟いて、ひたすら目の前の甘味を口に放り込んだ。
──甘味も早々に平らげると、光秀さんはまだ頬杖をついたまま、無言の微笑みをこちらに注いでいた。
「……ごちそう、さま、でした」
「ああ」
「………」
注がれ続ける笑顔に、これ以上どうしたらいいか分からずソワソワしていると、ようやく光秀さんが口を開いた。
「さて、このあとはどうする?」
「え…?……えっと……」
何もなければ、このあとは楽しいデートの時間のはずなのだけれど…
(今日は光秀さんと何をしても何処ヘ行っても楽しめる気がしない……)
答えに困って口籠っていると、光秀さんのほうから提案を受ける。
「今日は天気も良い。市でも見て回るか」
「…はい…」
もう何を言われてもイエスしか言えず、政宗との誤解を解くことも出来ないまま、私たちはご飯屋さんを後にした──