第4章 愛しけりゃこそ強とと打て
それに反発する強い力でグイと手を引かれる。
「わっ…」
バランスを崩した私を支えるものは、目の前に迫った逞しい胸板しかなく、反射的に抱き着く形で政宗の胸に倒れ込んだ。
「…ご、ごめん!…っ…」
慌てて立ち上がろうとすると、政宗の腕がぎゅっと締まる。
「…っ、ちょ…政宗?離して…」
「嫌だね」
抱き締められたまま見上げた政宗がにやりと笑う。
「もう!ふざけないで…っ」
必死にもがいてみるけれど脱出の手立てはなく、政宗は腕の中で無駄な抵抗をしている私を見て、お気に入りのおもちゃを見つけた子供のように楽しそうに笑っている。
(どうしよう、こんなところ、誰かに見られたら……)
「政宗!いい加減に…っ」
「楽しそうだな……俺も混ぜてくれるか?」
何処からともなく聞こえてきた声に心臓がどきんと跳ねた。
それは大好きな声、だけどいま一番聞きたくなかった声だった。
「光秀さん!」
政宗の肩越しに微笑みを湛えた光秀さんと目が合う。
「これは、その…事故で!」
「事故?お前から抱き着いてきたんだろう?」
「なっ…変なこと言わないでよ!政宗が引っ張ったから…」
誤解を招くような政宗の言い方に焦って、今の状況を忘れ、こちらでひと悶着起こしていると──
いつの間にか光秀さんが政宗の背中にピッタリくっつくようにして立っていた。
背後で頭上から見下す光秀さんを、政宗は私を抱く腕を緩めることなく、首だけで仰ぎ見る。
ふたりの視線がぶつかると、光秀さんは不敵な笑みを浮かべた。
「政宗……お前が今すべきことは何か、分からないような阿呆ではないはずだ」
その声はまるで私をあやす時のように優しく、唇は弧を描いているのに、政宗を見据えた眼は戦場で敵に狙いを定めた時のような温度のないもので…
「これで眉間をぶち抜かれたくはないだろう?」
そう言いながら、光秀さんの手が腰に携えた鉄砲を撫でる。
「おお、怖っ」
政宗があくまで冗談交じりにそう言ったあと、抱き締められた腕がわずかに緩んだ。
その瞬間を逃さず、私は素早くそこから逃げ出し、すかさず距離を取ると、光秀さんの背中に隠れた。