第3章 狐の恩返し~狐目線~
その間に、辺りの路地裏を歩いて回る。
密談をする際や追っ手を撒いたりと、よく使う路地裏は、入り組んだ路も熟知している。
人通りの少ない路は童たちの遊び場にもなっているため、その場所も把握済みだ。
いつもの場所で遊んでいた童たちの中から、一際賢そうなのに目をつける。
身なりから見て、おそらく城下に住む家臣団の子だろう。
あのくらいの歳の童ならば、取り分け風貌に特徴のある者でもない限り、人相を他人に伝えることは難しいだろう。
(さすがに、我ながら容姿には特徴がありすぎる…)
ここは引き継ぎ油売りに任せることとする。
──戻ってきた油売りから受け取った品を確かめ、懐に仕舞っておいた帛紗にそれを包み、昨日あの店で買った風車を添えて渡す。
(いくら童とて、共謀の報酬はやらねばな…)
「これを、あそこの童に──」
出来るだけ簡単な言葉で言付けを頼むと、すぐにその場を後にし、裏道を使い、城へと向かう。
(……さて、〇〇が俺の問題を解けるかどうか…)
あの娘のことだ、気が付かない可能性は十分あり得る。
しかし、不測の事態に備え、二手、三手、と仕掛けておくのが、俺の手法だ。
──安土城の大きな門がよく見える位置に身を潜める。
茜色に染まっていく空を眺めながら暫く様子を伺っていると、先程の童が心許無さそうにこちらへ歩いてくるのが見えた。
きょろきょろと辺りを見回しながら、包みをしっかりと握っている。
(……そろそろか)
間もなくして〇〇の姿が見えた。
目の前で不安そうにしている童に〇〇が声をかけたのを見届けて、その場を後にした。