第3章 狐の恩返し~狐目線~
まずは、〇〇の”欲しいもの”は何か、知る必要がある。
あの娘の行動範囲内で、何か品物を見つけるとするならば、城下の市以外にない。
城下町は俺にとって庭のようなものだ。
町中には、敵国の間諜が潜んでいる。
その間諜を監視する間諜として、町人、商人に扮した家臣を忍ばせてある。
その者たちの潜伏先を回り、報告を受けるのも日課の一つのため、
町人同士の痴話喧嘩から、惚れた腫れたの色恋沙汰まで、あらゆる情報が逐一耳に入るようになっている。
その情報網を駆使し、〇〇の動向を探ったところ──
近頃、ある店に頻繁に出入りしているという情報を得た。
それを手がかりに、城下を偵察していると、道端に佇む見覚えのある小袖を見つけた。
(情報通りだな…)
〇〇は露天商の店主と、なにやら親し気に話しているようだった。
気配を消し、近づいて、背後から〇〇の頭越しにそっと覗き込むと、その視線の先には、朱色の小箱があった。
「……ほう、それか。この前言っていた欲しいものとは…」
「ひゃあっ!」
態と耳許で言ってやると、華奢な肩を跳ねさせ、素っ頓狂な声を上げた〇〇がこちらを振り向く。
「光秀さんっ…!」
口元を手で抑えても、まん丸にしたその大きな瞳が、驚きを隠しきれていない。
期待通りの反応に満足しながら、並べられた店の品にざっと目を通す。
「また随分と洒落たものに目を付けたんだな……俺はてっきり、お前が欲しいのは、こっちだと思ったが…」
咄嗟に目を付けた風車を手に取る。
「今度お前が泣きべそをかいたときは、これであやしてやるとしよう……店主、これをもらおう」
無論、〇〇をあやすためではないが、それを本気と取った〇〇が文句を言いたげに俺を睨む。
都合よくこちらに向いた視線の前に、息を吹き掛けた風車をかざしてやる。
(……これを、よく覚えておけ)
ぷう と膨らんだ頬を突いてやりたかったが、そろそろ本気で怒りだす頃合いだろうと、それは遠慮することにした。