第3章 狐の恩返し~狐目線~
「今日はこれでいいだろう」
「ありがとうございました!」
教え子の成長ぶりに感心しながら、ここ数日の課題に思案を巡らせる。
この娘が喜びそうなことは、いくつか思いつくが…
甘味を鱈腹食わせてやる──
(それではいつもと何ら変わりない……)
一日中、苛め倒してやる──
(喜んでるのは光秀さんだけだ、と膨れるな……)
あれこれ考えてみるが、一向に納得できる案が思いつかない。
(嘘や人を欺く術ならば、湯水の如く溢れ出てくるというのに……困ったものだ)
何の駆け引きもないままに、ただ人を喜ばせることなど、不慣れな故。
そんなことを思いながら、ひとり自嘲していると、鉄砲を片付ける〇〇の様子がいつもと違うことに気付いた。
何かあるのかと、じっとその様子を観察していると、視線に気づいたのか、呆けた顔で〇〇がこちらを振り返る。
「……?なにか?」
「随分と忙しないな」
「……うふふ…ちょっと」
伏し目がちにはにかむ表情に、悪戯心がそそられる。
「何だ、男でもできたか?」
「っ、違います!」
本気で膨れる〇〇に、思わず笑みが零れる。
戯れに口を吐いて出た言葉も、〇〇は正面から受け止めるから面白い。
「……実は、欲しいものがあって。それを買うためにお小遣いを貯めてるんですけど、今お預かりしてる着物が仕上がったら、まとまったお金が入るので、早く仕上げたくて、仕事が休みの日も作業してるんです。だから、これから続きを…」
(欲しいもの、か……)
「……なるほど」
────────
〇〇との他愛ない話から、その”欲しいもの”に感謝の気持ちを乗せ、恩返しに出来ればと考えた。
ただ、それもまた、胸の奥底で燻る想い同様…
決して〇〇が知ることのない想いだ──