第2章 狐の恩返し
───がっくり肩を落とし、とぼとぼお城へ帰る。
すると、お城の門の前に、身なりの良い五歳くらいの男の子が立っているのが見えた。
(……どうしたんだろう?……迷子かな)
不安そうに辺りをきょろきょろしている男の子に、きっと今、魂が抜けたような顔をしていると思われる私は、怖がらせないよう、今出来る最善の笑みを浮かべ、優しく声をかける。
「どうしたの?」
その声で私を見つけた男の子が駆け寄ってくる。
傍まで来ると、こちらを見上げながら、緊張した様子で小さな口を開く。
「あ、あの……おだのおひめさまですか?」
(……?そういえば、表向きはそういうことになってたんだっけ…)
男の子と目線を合わせるようにしゃがむ。
「そうだよ。どうしたの?」
すると男の子は、小さな手で大事そうに抱えていたものを私に差し出す。
丁寧に帛紗に包まれた手のひら大のそれを受け取り、そっと包みを開いて、私は目を見張った。
「…えっ…」
それはまさに今、断腸の思いで諦めようとしていた、あの小箱だった。
(……なんで?)
わけが分からず唖然としていると、男の子がじっと私を見つめて、口をパクパクさせる。
「…えっと…ひめさまにおわたしするようにと、うけま、う、うけたわまっ、…うーうけ、たま、わって、ま、いりました」
失礼のないようにと、一生懸命話す男の子に、今度は心からの自然な笑みが零れる。
「誰から頼まれたの?」
「うーーん…」
「どんな感じの人だった?」
「え~?……わかんない」
この様子では、この子からは何も手掛かりは得られそうになくて、手紙が入っていたりしないか、蓋を開けてみたり、ひっくり返して裏側を見てみたりしたけど何もなくて…
最後に小箱を包んでいた帛紗を広げ、ぱさぱさと払った瞬間…
ふわり と微かに鼻孔を掠めた、どこかで嗅いだことのある香り。
「この香り…」