第12章 小娘の逆襲
「──ああ、そうでした。朝餉をお持ちいたしました。〇〇様より御館様へのお食事はこれに入れてお出しするよう言付かっておりましたので……中身は〇〇様の握り飯ではなくて申し訳ございませんが……その分、私が愛情を込めて握りました!」
そう言って、九兵衛は満面の笑みを浮かべ巾着袋を手渡してきた。
「ああ、嬉しくて吐き気がするようだ」
「それはようございました」
今更あからさまな皮肉など痛くも痒くもないとでも言うように、憎たらしい笑みを浮かべた『主君似の意地悪な家臣』は、そう言って機嫌よく天幕を後にした。
その後姿を鼻先で嗤って見送り、手の中の巾着に視線を落とすと、〇〇の”心配”を形にしたようなあの大きな握り飯を思い出し、頬を緩めた。
この際、九兵衛の握り飯だとういうことには目を瞑ろう。
(ここは〇〇の”想い”をいただくことにしよう──)
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そして…
日が高く昇りきった頃、戦いの火蓋が切って落とされた。
しかし、戦況は予想していたものとは少し違うものになった。
件の大名に加え、織田に対し日頃から腹に一物はらんでいた近隣のいくつかの小国がここぞとばかりに蜂起し、敵兵の数が予想よりも多くなっていた。
だが、狼狽えることなどはない。
ここには、あらゆる事態に備え用意しておいた戦略と、それに臨機応変に動いてくれる優秀な家臣たちがいるからだ───
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──無事に任務を終え安土へ戻ると、その足ですぐに信長様の元へと向かった。
速やかに報告を終え、御殿へと急ぐ。
身体は疲弊しているはずなのに、不思議と足取りは軽かった。
そして門前まで来ると、期待通りの姿を見つける。
その隣には、ひと足先に戻っていた忠臣の姿もあった。
先に気付いたのは〇〇方だった。
「っ…光秀さん!おかえりなさい!」