第12章 小娘の逆襲
陣営へ到着すると、兵たちは明日に備え早々に休ませた。
自身も天幕へと入るが、万が一のことに備え二の手三の手を練っておくため、休むことなく地形図を広げた。
──数刻後、あらゆる事態に備えた戦略を用意し終え、ひと息つく。
もうじき日が昇る頃だろう。
(──さて、九兵衛たちが目を覚ます前に…)
まだ辺りが寝静まっている間に身支度を済ませておくため、外へ出て桶に水を張り顔を洗う。
水を滴らせたまま、手探りで懐から取り出した手拭いからは優しい香りがした。
顔を覆い息を深く吸い込めば、より近くにその愛しい存在を感じる。
鼻孔を擽る優しい香りと、瞼に浮かぶ愛しい面影に鋭気をもらい、東雲の空がにわかに明るくなっているのを横目に見ながら、天幕へと戻る。
身支度を整え気を引き締め直すが、懐へ仕舞った手拭いからまだ少し離れ難く…
再び取り出しては、遠くに聞こえる鳥の声を聞きながら、そばの柱に持たれ暫し想いを馳せた。
そうして、日が昇るのを待ちながら目を閉じたのは…
ほんの刹那のはずだった──
──ふと、何かの気配を感じ、咄嗟に刀の柄(つか)に手をかけた。
しかし、天幕の隙間から煌々(こうこう)と差し込む光に浮かび上がって見えたのは、よく知った姿だった。
「──なんだ、九兵衛か……」
辺りの景色が鮮明に見え、朝日が昇りきったことを知らせる。
(不覚にも、少し眠っていたらしい…)
それが何となくばつが悪く思え、手に持ったままだった手拭いを懐へ仕舞い居住まいを正しながら、つい呆けたことを言った。
「どうした」
「……畏れながら、それはこちらの台詞でございます。御館様がうたた寝など……今日は雪でも降るやもしれませんな……」
ここぞとばかりに揶揄するように、九兵衛が天幕の隙間からを天を覗き見る。
「うちの家臣は揃いも揃って意地が悪いな」
「家臣は主君に似ると申します」
「それは初耳だな……どこの誰の迷言だ?」
「さて、どこの誰でしたか……?」
負けじと呆けてみせる九兵衛を一瞥して、その手元にふと目が留まった。
「──それは?」