第12章 小娘の逆襲
「…ど、どうぞ…」
膝の上に頭を預け寝転ぶと、褐色(かちいろ)のそれがふわりと身体を覆った。
「……?…これは…」
「はい。この前光秀さんに買って頂いた生地でブランケットをつくったんです。古くなった夜着の綿をいただいて中に詰めてあるのであったかいでしょう?」
近頃では、〇〇が何気なく口にする未来の言葉にも、聞き返すことは少なくなった。
それが嬉しくもあり、見下ろす笑顔に心からの笑みを返す。
〇〇の柔らかな肌、優しい温もり、甘い匂い…
それらが忙しない心を凪いでいく。
「…ぁ…」
──ふと、
心地よい静寂(しじま)を、〇〇の鳴いたような小さな声が揺らす。
庭先に向けられた視線につられるように、その先を見てみると──そこには真っ白な毛玉がいた。
それはこちらを見て、すくっと立ち止まると、不思議そうに首を傾げる。
「どうした、ちまき。狐が狐につままれたような顔をして」
何かを警戒するかのように、抜き足差し足でこちらへ歩いてきたちまきは、縁側に横たえた俺の身体を念入りに嗅ぎ回る。
頭から爪先までひとしきり匂いを嗅ぎ終えると、ようやく警戒を解いた様子で、今度は甘えるように身体を擦りつけてきた。
仕方なく頭や首をしばらく撫でてやれば、気持ちよさそうに目を細めて満足したようにその場で身体を丸めた。
少しずつ重たくなっていく瞼に抗わず、微睡みに身を任せる。
いつか、〇〇とこんな穏やかな日々を…
何も憂うことなく過ごせる世の中に…
そう思いながら…
──しかし、時は乱世真っ只中。
それが叶う日は、まだ少し遠い未来の話──