第12章 小娘の逆襲
態とらしく大きな溜め息を吐いて、手に持った握り飯を軽く掲げてみせる。
「この握り飯には”愛情”が込められている」
「……愛情……?そんなもん、味なんてするんですか?」
「ああ、入っているのといないのでは、ひと味もふた味も違う」
「どんな味です?」
「……まだお前にはわからない、か。……まあ、愛する伴侶がお前にもできれば、そのうちわかるようになる」
「ふ~ん……そういうもんですか?」
「ああ、そういうもんだ」
そんな他愛のない話をしながら、〇〇の愛情で腹を満たし、再び任務へと戻る──
──その後、疑いのかかった大名の元を訪れ、糾問(きゅうもん)を行った。
だが当然、素直に答える筈もなく…
しかし、それは予想の範疇であって、問題ではなかった。
長年培った得意の話術を以って、何気なく交わした会話の中から幾つか不審な点を洗い出し、その裏取りをすれば真偽は自ずと明らかになるだろう──
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それから数日経った、ある日のこと──
件の裏付けを取るため、各所に差し向けていた蜜偵たちから届けられた文に目を通しながら、自室で報告書を認めていた。
文机から正面に見る庭は、草木が水玉に濡れて輝き、清々しい風が雨上がりの匂いを部屋へと運んでくる。
そして、同時に──
障子戸に身を隠し、気配を消したつもりでいる、可愛い影も見えていた。
それは時折、そうっと顔を覗かせては、また隠れることを何度も繰り返している。
(何か気がかりなことがあるならば聞いてやりたいが……可愛いから暫く放っておくか……)
決して仕事の邪魔だけはするまいとする、その涙ぐましい努力に目頭を熱くしながら、むず痒くなる口の端を必死に引き締め、素知らぬ顔で墨を磨(す)り続ける。