第12章 小娘の逆襲
自嘲するように笑う〇〇が次に何かを口にする前に店主を呼ぶ。
早々に勘定を済ませていると、それを悪戯をして叱られるのを待つ仔犬のような瞳が見上げてくる。
「……ふたつも、いいんですか?」
「何なら、この店ごと買うこともできるぞ?」
「っ…さすがにそれは……遠慮しておきます……」
軽口で気を逸らしてやれば、〇〇もそれ以上無闇に遠慮することはしなかった。
代わりに律儀に頭を下げ、ありがとうございますと礼を言う〇〇に頷いて、まだまだ甘やかし足りない気持ちと、嬉しそうなその笑顔を連れ、店を後にした。
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町に出ると、ここ数日の長雨で商売にならなかったと見え、今日の晴れ間を逃すまいと、市はいつも以上に賑わっていた。
処狭(ところせま)しと並ぶ店にあちこち目移りさせながら、先程買った生地を包んだ風呂敷を大事そうに抱えた〇〇が少し先を行く。
その後ろ姿を、面映(おもは)ゆい気持ちで眺めていた。
絞り染めの歪な柄が美しい褐色(かちいろ)の生地と、鮮やかに染められた桔梗色の生地は恐らく…
俺のために何か作ろうという算段なのだろう。
(どうせなら自分の小袖でも新調すればいいものを……)
この娘はいつだってそうだ。
自分のことは二の次で、真っ先に他人の幸せを考える。
それが自分自身に向けられることに未だ少し慣れず、こそばゆい心地がしていた。