第12章 小娘の逆襲
長雨の続く季節──
今日は、束の間の”晴れ”の日だった。
反物屋の店主と話をする〇〇を、小上がりに腰掛け遠目に眺める。
(反物や針仕事のこととなると、〇〇は本当にいい顔をする……)
もてなしに出された茶で一服しながら、緩んだ口許を傾けた茶碗の下で隠した。
今日は欲しいものを買ってやる約束だった。
いつも気苦労をかけてばかりいる健気な連れ合いへの、ささやかな罪滅ぼしのつもりでもある。
当然、〇〇はその申し出を断ろうとしたが、そこはこちらも譲れない。
わがままを聞いてくれるように頼み込むと、観念した様子で困ったように笑いながら、頷いてくれた。
ひとしきり話を終え、店主が店の奥へ入っていったのと入れ替わるように、〇〇の傍へと寄る。
「どうだ、眼鏡にかなうものはあったか」
「……はい」
予想に反して冴えない返事が返ってきたことに小首を傾げながら隣に膝をつくと、ずらりと並べられた反物を目の前に、〇〇は先程までの笑顔を曇らせていた。
その理由は聞くまでもなく、すぐにわかった。
「色はこちらの方が好みだが……柄はこちらのほうが気に入った、というところか」
「っ…どうしてわかったんですか!?」
はっと息を呑むようにしてこちらを振り仰いだ〇〇は、丸くした大きな瞳を瞬かせる。
相変わらずの反応に愉快な気分になりながら、からかい混じりに目を細めてみせた。
「今更それを俺に聞くか?」
そう言うと、〇〇は見開いた瞳を伏せ、小さく息を零した。
「……そうですよね……光秀さんには全部、お見通しですよね……」