第2章 狐の恩返し
「……?なにか?」
「随分と忙しないな」
「……うふふ…ちょっと」
はにかみながらそう言うと、光秀さんが意地悪そうに口の端を吊り上げる。
「何だ、男でもできたか?」
「っ、違います!」
(すぐそういうこと言うんだから……)
「実は、欲しいものがあって。それを買うためにお小遣いを貯めてるんですけど、今お預かりしてる着物が仕上がったら、まとまったお金が入るので、早く仕上げたくて、仕事が休みの日も作業してるんです。だから、これから続きを…」
「………なるほど」
納得した様子の光秀さんの返事を聞いて、最後にもう一度練習に付き合ってくれたお礼を言ってから、私は足早に部屋へと戻った。
──翌日。
信長様から『秀吉に見つからないように、市で金平糖を買ってこい』との任務を受け、城下へ出掛けた帰り道。
「お嬢ちゃん!……どうだい、仕事ははかどってるかい?」
露天商のご主人に声を掛けられ、その見知った顔に、笑顔で足を止める。
「はい!数日中には出来上がりそうです」
40歳前後の物腰柔らかな人で、半月ほど前からここでお店を開いている。
漆器や民芸品などが並ぶ、私の”欲しいもの”を見つけたお店だ。
朱漆塗りの手のひらサイズの小箱で、螺鈿で施された桜の花が大小ふたつ控えめにあしらわれていて、角度を変えると虹色にキラキラ光って可愛らしさもあり、品もある。
ひと目惚れだった。
一見シンプルだけど造りは精工で、少し値は張るけど、頑張れば私のお小遣いでも手が届く範囲。
仕上がった着物を依頼主に届けて、寸法の確認をするとき、ちょっとしたお直しなら、持ち帰ることなくその場でできるように、最低限の針と糸を入れて持ち運べるソーイングセットになるような入れ物を探していたのだけれど、あちこち探しても、なかなか見つからなくて、ようやく出会えた逸品だった。