第2章 狐の恩返し
狙いを定め、引き金を引く。
耳をつんざく音とともに、筒から火を噴き、弾丸が飛び出す。
パンッ──
「っ……!光秀さん、見てください!ど真ん中!」
「ああ。見事だ」
私が放った鉄砲の弾が、木に括りつけた的の中心を射抜いた。
会えば意地悪されてからかわれるし、言ってることは嘘か本当か分からないし、冷徹非道、裏切者、悪い噂をたくさん耳にする。
この人を怖いと思うことも、正直ある。
そんな光秀さんが、どういうわけか、私の指南役となってから数か月が経った。
いつもは、私を苛めて愉しそうに笑っているけど、指南役としての光秀さんは、私ができないことを馬鹿にして笑ったりはしないし、分からないことは分かるまで丁寧に教えてくれる。
だから困る。
優しいのか、意地悪なのか。
善い人なのか、悪い人なのか。
「だいぶ上達したな。えらい、えらい」
「光秀さんのおかげです。ありがとうございます!」
初めは鉄砲に触ることすら怖かったくらいなのに、スパルタだけど教え方は上手な光秀さんのおかげで、今では火薬を扱うのも、弾を込めるのも全て自分で行い、照準を定め、それを打ち抜くことまで出来るようになった。
(できれば、これを人に向かって撃つことはしたくないけど……)
ここではそんな甘いことは言っていられないんだと、光秀さんの指南を数々受けた今では少し分かるつもりだ。
「今日はこれでいいだろう」
「ありがとうございました!」
練習が終わると、道具は全て自分で片付ける。
『武器を武器庫に返すまでが練習』が光秀さんの教えだ。
鉄砲の扱い方もすっかり覚え、慣れた手つきでいつもよりも手早く片付けをしていると、光秀さんが怪訝な顔で私を見ていることに気付く。