第11章 【寸話/18禁】化粧直し
そこには見たことのない、女の人がいた。
熱に濡れて潤んだ瞳…
快楽に逆上せて赤く染まった頬…
しゃぶり尽くされてぷくりと膨れた唇…
こんな色っぽい女の人、知らない。
その官能的な美しさに思わず見惚れてしまうけれど…
素肌を曝した光秀さんの腕に抱かれ、そんな悩ましげな顔を曝しているのは、紛れもない私自身で…
自覚してしまうと猛烈な羞恥に襲われ、堪らず逸した視線は顎を掴んだ手にすぐに元の位置に戻される。
「よく見てみろ。俺の手でお前はこんなに美しく色づく。紅など要らないほどにな…」
鏡越しに私と目線を合わせるようにして、光秀さんの指が顎のラインをするりと撫でる。
「──ただ……粧(めか)し込むのは俺の腕の中だけにしておけ」
そう言い含めながら、光秀さんが私の首筋に顔を埋める。
「…っ」
すぐに ちりっ とした痛みが走り、そこに刻まれた赤い印を見て、光秀さんは満足げに微笑んだ。
「〇〇……ひとつ聞こう」
「……?」
「なぜ拭わなかった?」
「……え?」
「お前の話によると、義元殿に会ったのは昼前。ばれんたいんの甘味作りは夕方には終わっていた。そこから俺が帰るまでだいぶ暇があったはずだ。その間、紅をつけたままでいたのはなぜだ?」
「っ……それ、は……」
「俺が嫉妬しないとでも思ったか?それとも……俺を妬かせるためか?」
「………」
そんなの、思いつきのちょっとした悪戯心だ。
いつも光秀さんの悪戯に翻弄されてばかりいるから、ささやかな仕返しのつもりだった。
なのに…
気付けば形勢は逆転していて、挙句の果てには散々に身体を弄ばれ、頭も身体も光秀さんでいっぱいにされていた。
最早まともに働かない私の思考では、今さらそんなことを聞かれても、都合の良い言い訳など思い浮かぶ筈がない。
それもまた光秀さんの策略だと知りながら、朧気な私の頭が絞り出した答えは至って素直だった。