第10章 幸達磨-yukidaruma-
「んっ…」
それは光秀さんから性急に求めるものではなく、私の拙い所作に優しく応えるような、甘い口づけ。
羞恥と快楽で寒さも忘れるくらい上気した身体が、悪いことをしている気分にさせる。
(でも……もう止まれない……)
熱い息を吐きながら、間近で見つめる熱っぽい瞳に身体が疼く。
(もっと、触れてほしい……)
そう思いながら言い出せずにいると、笑う吐息が唇をくすぐった。
「……続きは、いいのか?」
至極意地悪そうな笑顔で光秀さんがそう言うから、私も負けじとかまととぶって聞き返した。
「……続き……って?」
すると、光秀さんはますます意地悪そうに口の端を上げ、にやりと笑う。
「お前は……まったく野暮なことを聞く。……甘い口づけの続きと言ったら……ひとつしかないだろう?」
「そうですか?他にもいろいろあると思いますけど?」
「ほう、俺にはまるで思いつかないな……ならば、お前の思うその”いろいろ”というのを、具体的に言ってみろ」
「え?……それは……ええっと……」
「どうした?……いろいろ、あるんだろう?」
「あ、ありますよ?……だから……その……」
「時間切れだ」
「っでも!さっきみたいに、いきなり人が来るかもしれないじゃないですか?」
「あとは部屋には来ないよう、約束した」
「そんなこといつ約束したんですか?」
「そんなもの暗黙の了解だろう?仲睦まじい番の部屋を足繫く訪れるなど、それこそ野暮というものだ。心配するな。お前のために京から菓子を取り寄せるように、あれは案外気の利く男だ」
言いながら、じりじりと距離を詰めてくる光秀さんに後退りしていくと、まだ敷きっぱなしだった布団に足がもつれ、身体が傾く。
「あっ…」
「おっと」
尻もちをつく寸前、光秀さんの腕にしっかりと抱き止められた。
そのまま布団の上に優しく降ろされると、悪戯っぽい笑顔が見下ろしてくる。