第10章 幸達磨-yukidaruma-
「〇〇……お前、わざと惚(とぼ)けたふりをしているだろう?」
目を細めるようにして疑いの目を向ける光秀さんに、私は にひひ と笑って見せた。
「……バレました?…っ」
組み敷かれたまま、光秀さんのおでこが こつん と私のおでこを小突いた。
「悪い子だ」
そんな甘いお叱りなどただ嬉しいだけで、私は悪びれもせず言い返す。
「だって、ここにいる間は、我侭に甘えてもいいんでしょう?」
そう言うと、光秀さんは ぴくり と肩眉を上げたあと、今度は優しく ピトッ とおでこをくっつけた。
ああ言えばこう言う意地悪な光秀さんとのやりとりが嬉しくて、鼻先が触れる距離で見つめ合い、笑い合う。
「そうだったな。お前は、”意地悪な俺”が好きだったな」
「でも、優しい光秀さんも好きです」
「ああ、我侭で何よりだ。どちらの俺も堪能するといい。……今だけ、特別、だぞ?」
どちらからともなく唇が重なり、曝された肌が剥ぎ取られた着物を恋しく感じたのも束の間…
触れられた箇所から火が付いたように熱を帯びていき、閉ざされた白銀の世界では、熱い吐息も、はしたない甘い声も、しとどに濡れる音も全部、雪に埋もれていく。
身体が熱(いき)れて、大胆に淫(みだ)れていく自分が恥ずかしい。
(でも……今は、我侭に甘えるって決めたから……)
身体が震えて止まらないのは、冬の寒さのせいにした──
おわり。
2021.1.27