【歌い手】貴方を愛したこと。【After the Rain】
第3章 §始まりは§
彼と、初めて【そういう】関係になったのは、あるホテルだった。
朝、目が覚めて目についたのは、見覚えの無い天井。
裸の身体。
しばらく放心状態に陥った。
そして、全く無い昨夜の記憶を探りながら寝返りを打とうとしたその時。
見て、しまった。
同じく裸で横に寝そべる、気だるげな美丈夫の姿を。
(やっちまった.........)
記憶の全く無いこの状況からして、恐らく昨夜の私は、このイケメンと【そういうこと】をしてしまったのだろう。
若かりし頃なら、(イケメンに抱いでもらえてラッキー♪)ぐらい思うのだろうが、あいにく今の私には彼氏様がいらっしゃる。
(いくらぐらい払ったら内緒にしておいてくれるかな......)
なんてことを考えながら、ベッドから降りて床に落ちていた昨夜脱ぎ散らかしたのであろう衣服を身体に纏った。
(.........あ。)
これ、イケメンが目覚める前に帰ったらセーフなのでは???
(...善は急げ。)
果たしてこれは善なのかは疑問だが、とにかく忘れて帰ろう。
覚えていないが、昨日の私は彼氏に【友達の家に泊まる】なんて内容のメールを送っているし。
すぐさま、彼氏に万が一の時のために、といくつか預けられている諭吉を一枚テーブルの目立つところへと置き、そそくさとホテルを出た。
(さ、早く家に帰って忘れちゃって無かったことにしよう。)
なんてことができると思っていた時期が、私にもありました。