第2章 蕾
少し群衆から離れた所で、やっと挨拶を交わす事が出来た。
雪華「ヒカクさん、今日もよろしくお願いします」
この人は私が女だとわかっているから、素の自分をついつい出してしまう。だから声音も少し女の子らしくなってしまう。
ヒカク「ああ、ケガのないようにな」
ヒカクさんの暖かくて、少しごつごつした手のひらが私の頭を撫でてくれる。
この温もりが大好きで、だからなのか昨日の事が辛さを増してしまった。
雪華「はい、ご心配ありがとうございます」
その感情がバレないように作り笑いを浮かべてヒカクさんの顔を見ると、ジッと見つめられた。そして一度強く頭を撫でると
ヒカク「…昨日なにかあったか?」
と、まるで“話してもいいんだぞ”と言ってくれたように促してくれた。
雪華「!」
さすがはヒカクさん。
本当は話すのが恥ずかしくて言うつもりはなかったけど、どこか聞いてほしい自分もやっぱりいたから少しの間をおいて話した。
雪華「…数週間前に父から色の任に就けと言われました。昨夜兄から…手ほどきを」
ヒカクさんから顔をそらしてうつむきがちになりながらしゃべる。
ヒカク「実の兄と?」
ヒカクさんの撫でてくれる手が止まって、少し怒気を挟んでいるような声が聞こえた。
雪華「はい」
やはり話すべきじゃなかったのかもしれない。いくらヒカクさんでもこんな話聞きたくなかっただろうに。
ヒカク「はぁ… 今日の戦のあとに私の屋敷に来るんだ、ケガしているだろ」
ため息が聞こえて落胆した肩に手を置かれ、優しく話しかけてくれた。
一度落ち込んだ体と心はすぐに通常を取り戻し、それを超えて嬉しさで頬を赤くさせた。
雪華「! いえ、自分で手当てしましたから」
調子に乗ってはいけない。
今の時点で話を聞いてもらっているんだから贅沢はできない。
ヒカク「仮にも女性だ。戦後の話し合いというていにしよう」
そうずるい誘われ方をされては断れない。
けれど、どこかそうしてくれると期待している自分がいたのは我がままだろう
雪華「そ、それなら…」
ヒカク「なら今日も無事に帰還し、久方ぶりに話をしよう」
雪華「はい!」