第1章 暗闇
戻りの廊下、先ほどと同じ場面だったが、どこか誘われるように庭の冬桜の元まで駆けた。
書物に書かれていた男女は月夜に見守られながら桜の下で永遠の愛を誓い、深い口付けをしたと書いてあった。
確かそれを読んだのは春桜が咲き誇っていた近くの山奥だった。
任務終わりにこっそりと買った恋愛を記した書物を持って、隠れるように山に行った。
その山にはそこまでは大きくはないが、あの頃の私にはすごく大きく見えた桜の木があった。
当時はたしか10歳の頃。あの春桜の下で憧れの想いを胸に詰め込んでいた記憶が、今となっては乾いた笑顔で懐かしく思えた。
自然と、涙が流れた事には気が付いたが、必然の様にも想えて、止まらない涙をぬぐう事もなく、冬桜が風で散っていくのを見ていた。
まるで、自分の未来を示しているかのようだった。
枯れるのではなく散っていく。
地に落ちた花びらを拾って感触を確かめると、まだ少し桜特有の柔らかさが残っていた。
落ちたばかりはまだ救いようがあるのかもしれない。