第1章 暗闇
うちは 雪華 17歳
雪華「父上、参りました」
襖は開けず、立ちながら部屋の中で鎮座しているであろう父へ言葉を掛ける。
父 うちは トウキ
トウキ「入れ」
正直入りたくはなかったが、こう言われてしまえば逆らわずに従
わなければならない。
雪華「失礼いたします。」
膝をおって襖にソッと手をやって音をたてないように開ける。中へ入り姿勢を崩さず襖を閉じる。 そして父の方へ向き、父の憎い顔を自分の目でとらえる。
なんと憎たらしく、恐ろしい目なのか。
トウキ「今日で17か」
突然の言葉に、内容に少し驚いてしまった。
雪華「はい。」
トウキ「ならば時期だな」
時期、というのは年齢の事を指しているのだろうが、何の事であろうか。思考を巡らせ父の次のことばを待つ。
トウキ「貴様に女としての任を与える。体も醜く育ってしまっただろ
う。活用はする。」
女としての、任。とだけ聞きたかった。やっと女として、偽りの自分でいなくていいと思った矢先に、これだ。
醜く育った体。膨らむ胸に、女らしい尻に体の感触。それらを活用
すると言ったら、一つしかないだろう。
トウキ「要件は以上だ、去れ」
今日の日付を、思い出した。
そう、誕生日。
誕生日とは祝う日ではないのだろうか。決して人を苦しめたり、貶したりする日ではないはずだ。
自分で自分を祝った今朝の陽の下。
今はすべてが、暗闇の中だ。
祝いの言葉ではなく侮辱の言葉を贈られ、感謝ではなく憎しみをぶつけてしまかった。
“去れ”という言葉を聞いて立ち上がり、涙をぐっと堪えて襖を音を立てて閉めた。