第20章 冨岡義勇
どこか聞き覚えのある声、そして扉を開けてモザイクのない施術師の顔を見ると、私は驚いて目を見開いた。
「と、みおかさん…?」
黒いハイネックにジーパン、焦げ茶色のコートを羽織り、リュックを背負って、いつものように髪をひとつに束ねている冨岡さんがそこにいた。
「お前は…綾川か?」
相手も驚いているようで、僅かにだがいつもよりも目が開いている。
「冨岡さん、部屋違うんじゃないですか?」
冨岡さんはうっかりだから、彼女と待ち合わせていて部屋を間違えた可能性もある。
私は一縷の望みを胸に宿して尋ねた。
「いいや…325号室で沙織という女性から予約をもらっている。…まさか、綾川のことか?」