第17章 【下弦の伍】累
累くんの体温が感じられない手が重ねられる。
冷たくて、細い手だった。
「これが愛ってことなんじゃないのかな、違う?沙織」
累くんに腕を引き寄せられ、顔と顔は鼻が触れそうなくらいに近付いた。
こんな目の前に幻想的な顔があったら目が潰れてしまいそうだ。
私はほぼ条件反射的に目をそらした。
「ねぇ、合ってる?この辺りが暖かくなって、君のことしか考えられなくなる。これが愛情なんだよね?」
「そう、そうだよ、きっとそう」
婚約者と結婚してからというもの、私は愛だなんて感じていなかった。
両親は姉と私が幼いころに亡くなったから、養子として引き取られていた。
でも、そこで私は愛されなかった。
愛される姉と愛されない私。
もうこの先は誰にも愛されないままだと思っていた。
「君は本当にあの男を愛してるの?」
「あっ…あいして、る…」