第17章 【下弦の伍】累
義母ももう寝たであろう。
私はあの山に行ってみることにした。
ここからでもそう遠くは無いはずだし、自由に動けるのは夜だけだ。
朝までに帰ってこれば怒られはしない。
下駄を履いて、私は家を出た。
しばらく道なりに歩いていくと、うっそうと木がしげる山に着いた。
「ここだ…」
1歩、山に踏み入れてみる。
無邪気だったあの頃は何も思っていなかったが、大人になった今の私には怖すぎるくらいだった。
ーもうどこか分かんなくなっちゃった
上に登ってきているはずだが、後ろを振り返っても帰れそうな気配はない。
これ以上迷うのも怖くなって私はその場で立ち止まった。
葉の擦れる音が不穏でしかなくて、どんどん恐怖心を煽られていく。
ーこんなことになるなら来るんじゃなかった…
幼いころの私の姉が帰って来れたのだから大丈夫だと過信してしまっていた。
「助けて…誰か…」
こんな時に思い浮かべる人もいない。
なんて寂しい人生なんだろう。
私はしゃがみこんでうずくまり、涙を流した。