第14章 【炎柱】煉獄杏寿郎
「杏寿郎…!」
さっきの任務が終わった直後なのだろう、少し泥に汚れた羽織りを着たままの杏寿郎がそこにいた。
「今日は偶然が多いな、君もこの藤の家だったとは」
優しく笑みを浮かべる杏寿郎の顔を久しぶりにじっくりと見れて、私は嬉しくなった。
「任務…お疲れ様」
「あぁ、沙織もご苦労だったな」
ーどうしよう、久しぶりで顔が見れない…
心臓がうるさいくらいに鳴って、顔に熱がのぼっていくのを感じる。
「…沙織、抱きしめたいのだが、いいか?」
たしかに恋仲の男女が部屋で突っ立っているだけというのもおかしな話だ。
杏寿郎は私の髪に指を通して、私の返事を待っている。
ーでも、こんな心音聞かれたくない…!
「い、いや、杏寿郎、泥だらけだから汚れちゃう」
私は思わず杏寿郎の胸板を押し返した。
杏寿郎は不服そうに口を尖らせ、私の髪から手を離す。
「むぅ…それもそうか…じゃあ、おやすみ」